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2018.07.18 (水) 杉本晶子

シリコンバレーと「100年企業」

 アンカーの杉本晶子です。

 6月に米国に足を運びました。まずはシリコンバレーで、いま見ておきたかった2つの会社を訪れました。
 半導体メーカーの新旧プレーヤーです。
 昨年の世界的な株高を引っ張った代表的なセクターといえば半導体。過去には循環的な浮き沈みを繰り返してきましたが、このところは人工知能(AI)やデータセンター、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」といった用途が急拡大し、好況が長期化する「スーパーサイクル」に入ったのではないかという楽観論も飛び出しています。本場での熱量はどれほどなのか、感じてみたいという思いがありました。

 産業記者歴が長い私は、海外に行くと工場や研究所、企業博物館をのぞくのが趣味。職業病というか、わけもなく血が騒ぎます。

 最初に行ったのは、サンタクララにあるインテル本社。実は今年7月18日に50周年を迎えます。外壁には創業の1968年を起点に、現在、そして50年後の2068年がプロットされ、100年企業として持続していく意気込みを感じます。

 本社1階には博物館があり、誰でも見学することができます。
 こちらは71年に発売された世界最初のマイクロプロセッサー「インテル4004」とそれを組み込んだ電卓。ビジコンという日本の会社の高性能電卓です。
 そして、おなじみ「ムーアの法則」を紹介するコーナー。半導体回路の集積度は2年で倍になる、つまり半導体の処理能力は2年ごとに倍増する、というものです。これをスケートボードにあてはめると・・・
 20年後にはこうなります。
 いま1.5フィート(約46センチ)飛べるとしたら2年後には2倍の3フィート(約91センチ)、そして20年後には1600フィート(約490メートル)――。超高層ビルを飛び越える計算になります。飛躍的に半導体の性能が向上してきたことが直観的にわかります。

 そしてもうひとつ訪れたかったのが、このところマーケットでは「自動車関連銘柄」と受け止められているフシもある画像処理半導体(GPU)大手のエヌビディア。インテルから車で10分足らずの地点にあります。昨年秋に完成したばかりの新本社がこちら。
 何やら宇宙船か秘密基地をイメージさせる、前衛的なデザインの建物です。
 高速道路上にかかる滑走路のような橋を渡ると、ロビーで目に飛び込んでくるのが「i am ai」というロゴ。
 そうです、「私はAI」。英語だと後ろから読んでも前から読んでも同じ、いわゆる回文になっているのですね。
 建築をよく見てみると、三角形の組み合わせが多いことにお気づきでしょうか。もとはといえば、ゲーム画面の映像を滑らかに表現するためのGPUで成長した同社。CG(コンピューターグラフィックス)は立体を三角形に分割したものを基本要素として画像処理を行うことから、新本社にもこの意匠をちりばめたそうです。

 そのエヌビディア、現在はゲームに加え、AIと自動運転をあわせた3つの柱で業績を拡大しています。

 エヌビディア共同創業者のジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は5月中旬の2~4月期決算発表でも、「AI向けの需要は信じられないような伸びを示している」と強調。実際、四半期での増収増益の伸び率は18年1月期通期決算(売上高は前の期比41%増、純利益は83%増)を上回るペースとなっています。
 エヌビディアは今年に入って、上場来高値をたびたび更新。独フォルクスワーゲンやトヨタ自動車のほか、米アマゾン・ドット・コムやグーグル、中国のアリババ集団などを顧客に抱え、IT業界で最も勢いのある企業のひとつです。

 かたやインテル株はというと足元で、ITバブル以来の高値水準にまで回復。パソコン依存型ビジネスからの脱却を目指し、M&A(合併・買収)を繰り出してエヌビディアなどの新興勢を迎え撃とうとしていることに、「スーパーサイクル」期待論もあいまって投資家の注目を集めています。ただ、半導体を国策に据える韓国勢や中国勢の追い上げもあり、将来にわたって王座が約束されている保証はありません。
 この先50年を見据えるにあたって、ヒントになりそうな言葉を見つけました。
 インテル博物館に飾られていた共同創業者らの語録です。
 「この先20~30年に科学技術の多くの領域で学んでいくことは、我々がここまで(50年間)積み上げてきた知の合計を上回るだろう」≪ゴードン・ムーア氏≫
 「全力を尽くし、それを楽しむことが一番大切。傍観者ではなく実行者であれ」≪ロバート・ノイス氏≫
 貪欲さと謙虚さがにじむ言葉だと思います。

 ひるがえって日本。総合電機の多くはバブル崩壊以降、半導体部門を手放しました。日本の半導体メーカーの世界におけるプレゼンスは大きく後退。6月に東芝が米ファンド連合に東芝メモリを売却したニュースも記憶に新しいところです。
 一般に短期志向といわれることが多い米国企業ですが、本当にそうでしょうか。インテル「3人目の社員」にして中興の祖、アンディ・グローブ氏がかつてDRAMから撤退してCPUに経営資源を集中した経営判断は、いまもビジネススクールでは成功ケースとして語り継がれています。当時は世間の度肝を抜く決断だったそうです。いま、日本企業の多くは3カ年などの中期経営計画を立て、そのなかでのやりくりで近視眼的になっているようにも見えます。100年単位でのビジョンを持ち、大胆な判断を下すことの大切さをもう一度考えてみる時期に来ているのかもしれません。