プロデューサーBLOG 今、一番気になるテーマをお伝えします
プロデューサーBLOG

2018.08.10 (金) 杉本晶子

「年収4000万円が中流層」のからくり

 アンカーの杉本晶子です。
 引き続き米国リポートです。

 西海岸特有の抜けるように青い空のもと、キャンパス内の噴水で無邪気に水遊びに興じる学生たちを横目にスタンフォード大学を離れるとき、シリコンバレーのいまの経済を良くも悪くも映すある場所を通りました。

 それはスタンフォード大のキャンパスに接する大通り。ずらりと縦列駐車しているのは「トレーラーハウス」です。
 40~50台はくだらない圧倒的な数。公道にずっと停まっているこれらの車にはもともとこの地域に居住していた人々が暮らしているというのです。家賃が高騰し、アパートなどに住めなくなったものの、仕事などの事情でこの地を離れたくないということのようです。
 思い返せば私が出張で初めてシリコンバレーを訪れたのは1990年代後半。ドットコム・バブルの数年前にあたり、インターネットに関連したスタートアップがスタンフォード大のあるパロアルトなどで多数生まれていた時期でした。人の流入が増え、景気も拡大していたためでしょう。当時、同僚でシリコンバレーに駐在していた記者が、「家賃や生活費が急速に上がっていて、日本にいたときよりも生活が苦しい」と言っていたのを記憶しています。いまの状況はというと、そのころより家賃高騰に拍車がかかっているのは間違いないようです。

 不動産調査会社のパラゴンによると、シリコンバレーを含むベイエリアの一軒家の取引価格(中央値)は2018年上期時点で、サンフランシスコで約160万ドル(約1億7700万円)、日本の楽天やソニー・インタラクティブエンタテインメントがオフィスを構えるサンマテオで約155万ドル(1億7200万円)、インテルなどが本社を置くサンタクララで約140万ドル(1億5400万円)、など。08年のリーマン・ショックから12年ごろまで、これらの地域の一軒家の価格は60~70万ドル(6600万~7700万円)ほどだったので、わずか5~6年で2倍以上に跳ね上がったことがわかります。家賃相場も同様に、上昇傾向が続いているもようです。
 新規株式公開(IPO)やバイアウト(会社売却)、ストックオプション(株式購入権)の行使などでいわゆる「IT長者」になるなどして、リッチな住人が増えていることが背景にあると思われます。

 米国勢調査局のデータを見るとパロアルトの世帯年収(中央値)は13万7000ドル(1500万円)あまりで全米平均の2倍超。とはいえ、地元メディアが実施した住民へのアンケート調査によれば、回答者の3分の1が自身を「ミドルクラス(中流階級)」と認識しており、そう回答した人には「年収40万ドル(4400万円)という人もいた」のだそうです。にわかに信じがたいですね。

 一方で、現地在住の知人に教えられて訪れたのが、ベンチャーキャピタル(VC)の投資家とスタートアップの起業家が打ち合わせによく使うというローズウッド・サンド・ヒルというホテル。スタンフォード大学から数キロの地点にあります。高速道路沿いという場所にありながら、リゾート感あふれるたたずまいです。

 平日の昼下がりにもかかわらず、高級そうな調度品が並ぶ施設内のバーやカフェはどこもほぼ満席。ビールを片手に、パソコンを開いて真剣に話しているビジネスパーソンらしき人々がそこかしこにいました。

 こうした場所から、スタートアップの増資引き受けやM&A(合併・買収)などの商談が決まっていくのでしょうか。「ポスト・グーグル」や「ポスト・アマゾン」を狙うユニコーン(企業価値が10億ドルを超える未上場企業)がひしめく土地だけに、テクノロジー企業が吸い寄せるマネーの勢いを垣間見るようでした。同時に、先ほどのあのトレーラーハウスを思い出し、ベンチャーキャピタリストや起業家といった富裕層と、バブル的な景気拡大の陰で「ワーキングプア」に転落した人々が同居する街だという印象を強く持ちました。

 夜、テレビのチャンネルをあれこれ変えていて思わず引き込まれたのはその名も「シリコンバレー」という連続ドラマ。いわゆるGeek(オタク)がひょんなことから起業家になり、仲間たちとスタートアップを運営していくというストーリーで、サンフランシスコやシリコンバレーのスタートアップ界隈の人々には「確かにあるある!」というエピソードがちりばめられ、人気だとか。主人公の俳優さんがこちらですが、有力ソーシャルメディアのあの経営者にどことなく似ていますよね。

 たまたま私が見ていた放送回では主人公がパーティーに参加しているシーンがありました。その場面に、アルファベット(グーグル)のエリック・シュミット前会長本人が出演していてびっくり。なんでもIT業界の経営者ら著名人がこのように「友情出演」していることも話題だそうです。
 
 テクノロジー企業が生み出す巨万の富と、確かに刻まれている経済格差。再び雇用や消費の拡大で好況な米国経済ですが、「街角経済」からは社会にひずみを抱えているさまもうかがえました。