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2018.10.18 (木) 杉本晶子

シカゴで垣間見た「場立ち」の名残

 アンカーの杉本晶子です。
 引き続き、米国リポートにお付き合いください。
 西海岸から飛行機に乗って、中西部のシカゴにも足を伸ばしました。

 今回ぜひ訪れたかったのが世界のデリバティブ取引の中心であるシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)と、その傘下にあるシカゴ商品取引所(CBOT)です。ニューヨークで駐在記者をしていたころには雑事にかまけてなかなか出向く機会がなく、ようやく念願がかないました。

 まず訪ねたのがCMEのビル。特別に内部を案内して頂きました。
 受付から見上げると、指数などの電光表示に並んで米CNBCの生放送番組がオンエア中でした!

 CMEは日経平均先物が取引され、24時間取引ができる電子市場「GLOBEX(グローベックス、シカゴ先物取引システム)」の本拠地としても日本の投資家にもなじみの深い場所ですね。1階の天井からつるされた地球型の構造物は、グローベックスの象徴。来訪者の目を引き付けます。

 ロビーの壁には、古代をモチーフにしたと思われるレリーフがありました。女性が触れている動物はよくよく見ると乳牛でしょうか。1874年に創設されたCMEは19世紀末には「シカゴ・バター・卵取引所」と称していたため、それにちなんだものなのかもしれません。

 CMEは昨年末からはビットコイン先物の取引を始めたことでも注目を浴びています。創設から140年あまりを経て、新たな金融商品取引の先駆者であろうという姿勢が伝わるようです。

 案内して頂いたのは、取引システムの運用を監督しているグローバル・コマンド・センター(GCC)のフロア。世界中の顧客からの問い合わせを受ける「眠らない」サポート拠点です。残念ながら撮影はNGでしたが、無数のモニターが並び、整然とした広々とした空間でした。ここでは「1カ月に約1万の電話と、約7000の電子メールを受けている」と担当者。ニューヨーク、シンガポール、ロンドンの拠点とリレー式で、24時間体制で顧客対応をしているとのこと。顧客サポートのほかに、マーケットの監視をしたり、決済価格や価格制限を管理したりしているそうです。
 かつては取引所フロアに、手を使ったサインや声で売り買いの注文をする「場立ち」のスタッフが詰めていたCMEですが、いまでは完全電子化。グローベックスを通じて150を超える国・地域とつながり、瞬時に大量の注文をさばいています。CMEグループの1日平均取引高は過去最高を更新しており、世界の投資家に欠かせないシステムになっていることがわかります。

 担当者に聞けば、GCCが特に忙しくなるのは、「雇用統計の発表や、米連邦公開市場委員会(FOMC)など重要な経済イベント」のほかに、「テロなど予期せぬ出来事」の際だということです。後者については、5年前に実際に起きた「ホワイトハウスで爆発が起きた」という偽の情報が米AP通信のツイッターから流れた出来事などがその一例。このときはAP通信のアカウントがハッキングされたことが原因でしたが、株価は一時急落。GCCでは多数のニュースソースのツイッターなどをフォローし、こうした事態にも冷静に対応できるようにしているということです。

 一方、CMEから歩いて10分ほどの場所にあるCBOTは米国最古の先物取引所。1848年に創設されました。
 数々の映画のロケで使われているので、ビルに見覚えがある方もいるでしょうか?『バットマン・ダークナイト』や『アンタッチャブル』の名シーンなどに使われています。

 穀倉地帯に位置しているうえ、五大湖に近く、鉄道の整備などもあって交通の要衝であったシカゴは穀物の集積地として発展。農家と需要家の間で、需給や市況の調整弁として「先物」の仕組みが確立していったという歴史があります。現在でも小麦やトウモロコシや大豆などの価格はCBOTの先物市場が指標となっています。
 このCBOTには、「場立ち」がわずかに残っているそうです。ビル内を歩いていると、ちょうどお昼時だったせいか、場立ちらしき仕事着を羽織ったまま職場をあとにする初老の男性とすれ違いました。アポなしでしたが一縷の望みを賭けて受付で問い合わせたところ、やはり残念ながら、いまは取引所内の見学は受け付けていないとのこと。代わりに、ビルのロビーには過去の場立ち取引の白黒写真がスライドショーで映し出されるモニターがありました。

 注文を取り次ぐざわめきや大声が聞こえてくるようなカットですね。

 こちらは取引所内にあった理容室を映したものでしょうか。

 これらの写真からは、大勢の人々が働き、職場であるとともに仕事の合間に髪を整えるといった生活の一部でもあった取引所の歴史が感じられます。

 今年9月、「金融先物の父」と呼ばれるCMEグループ名誉会長のレオ・メラメド氏が来日しました。都内での講演で、「私は大きな反対があったにもかかわらず、『オープン・アウトクライ(場立ちによる売買注文)』に代えて、グローベックスを導入した。それがなければCMEはいま存続していなかったかもしれない」と振り返りました。「技術の進歩もグローバル化も止めることはできない。技術は不可抗力的に、障害となるものをすべて破壊してしまう」とメラメド氏。

 いまでもニューヨーク証券取引所(NYSE)のテレビ中継では、大勢の場立ちが取引フロアで注文をやりとりしている様子が映し出されます。そのフロアから記者が様子を伝えるCNBCなどのリポートは「相場の体温」がより伝わるような気がして、個人的には好きなのですが・・・。メラメド氏の論にならえば、この先、「ブロックチェーン(分散型台帳)」があらゆる取引に応用され、人工知能(AI)やあらゆるモノがネットにつながるIoTが進展したとしたら、取引所のあり方も想像もしないような姿になるのかもしれません。