第2弾《前編》
2018/9/3 公開
武者陵司さんインタビュー「日経平均株価10万円のロードマップ」
~武者陵司氏(株式会社 武者リサーチ 代表) スペシャルインタビュー~
聞き手:「マーケッツのツボ」でおなじみ!鈴木雅光氏(有限会社JOYnt代表)
いよいよ米中貿易戦争の火ぶたが切って落とされました。米国は7月10日、中国からの輸入品2000億ドル相当を対象として、新たな関税リストを発表。 中国商務省は、これを「受け入れ難い」として、対抗措置を打ち出す方針です。マーケットは今後の成り行きを慎重に見守っています。 世界1、2位の経済規模を持つ両国間の貿易戦争は、事態が深刻化するほど、世界経済にネガティブなインパクトを及ぼすのは必至。 この貿易戦争はどこまで深刻化するのか。その時、マーケットはどうなるのかを、武者リサーチ代表の武者陵司さんに分析してもらいます。
武者 陵司(むしゃ りょうじ)
エコノミスト
株式会社 武者リサーチ 代表

1949年長野県生まれ。1973年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券に入社。
1988年大和総研アメリカでチーフアナリストとして米国のマクロ・ミクロ市場を調査。
1997年ドイツ証券調査部長兼チーフストラテジスト、2005年ドイツ証券副会長を経て、2009年株式会社武者リサーチを設立。
主な著書
『日本株大復活』(PHP研究所)
『新帝国主義論』
『「失われた20年」の終わり地政学で診る日本経済』(東洋経済出版社)
『超金融緩和の時代』(日本実業出版社)
『結局、勝ち続けるアメリカ経済一人負けする中国経済』(講談社+α新書)
『史上最大の「メガ景気」がやってくる』日本の将来を楽観視すべき五つの理由(KADOKAWAより2018/6/29発売)
―――まず、米中貿易戦争がマーケット、とりわけ株価に及ぼす影響をどう見ていますか。
武者氏決定的な対立にはならないでしょうね。うやむやのまま、いつの間にか事態は沈静化に向かうでしょう。

結論から申し上げますと、これまでは米中貿易戦争の行方を睨んでリスクオフムードが広まっていた株式市場ですが、徐々にリスクオンへと移っていきます。

今年後半には再びゴルディロックス相場が復活し、米国の株価は順調に値上がりするでしょう。そして米国の株高は、日本の株価を押し上げます。
―――米国は7月10日に、中国からの輸入品2000億ドル相当を対象とした関税リストを発表し、中国政府はこれに対抗する姿勢を強めています。米国経済にとっても、これはマイナスではないのですか。
武者氏今回、トランプ大統領が中国に対して強硬な姿勢を見せているのは、一方的な中国のフリーライドを止めさせるためです。
中国が報復すれば、米中ともに失うものが大きいなどと言われていますが、決してそのようなことはありません。

フリーライドとは、言うなればアンフェアないいとこ取りですから、それに対して米国が「ノー」を突き付けたことによって、中国はより大きなものを失うことになります。

もちろん、米国も一時的には中国向け輸出が落ち込むため、経済にとってマイナスは生じますが、今回の貿易紛争の核心は、中国が世界のサプライチェーンの中心にあり、 そこでさまざまな技術を盗んでいるのを止めさせることにあります。

もし、中国が徹底的に抵抗するというのであれば、米国は中国以外の国・地域に生産拠点を移すでしょうし、原材料も中国以外のところから調達し、製造したものを米国が輸入する形に変わっていくでしょう。

それは1年程度では無理ですが、5年くらいの期間を見れば、十分に可能です。
となれば、グローバルなサプライチェーンから外された中国経済の成長率は、今後、大きく低下していくと考えられます。
―――米国と中国の応酬がどんどんエスカレートして、抜き差しならない事態に陥るリスクはありませんか。
武者氏マーケットはそこを一番恐れています。ただ、このままエスカレートするようなことにはならないでしょう。
両国とも落しどころを探り、ソフトランディングすると思います。

たとえば、米国が中国からスマートフォンを一切輸入しないとなれば、米国経済はハードランディングになりますが、そんな馬鹿なことをするわけがありません。

ましてや、米国で製造されている半導体の半分は中国向けですから、米中の経済関係を直ちに遮断すれば、米国経済にとっても自殺行為になります。
米国が今、考えているのは、あくまでも5年、10年単位の長い時間をかけて、徐々に中国をグローバルサプライチェーンの中核から引き摺り下ろすことです。

そして中国は、その現実を受け入れざるを得ないでしょう。なぜなら、中国にとって最大のお客様は米国だからです。
中国は、米国に製品を輸出することで潤っている国ですから、仮に米国の要求を徹底的に突っぱねたら、最大のお客様を失うことになります。

このように考えると、抜き差しならない事態に陥るのは、米国にとっても、また中国にとっても得策ではないので、どこかの段階で必ず妥協案が浮上し、米中貿易戦争は一応の決着を見ることになります。

ただし、中国が米国の要求に譲歩するためには、最高指導者である習近平のメンツが立たなければなりません。
―――北朝鮮と戦争寸前までやり合ったトランプ大統領ですが、習近平総書記と上手くやることが出来るのでしょうか。
武者氏皆、トランプ大統領はバカだと思っているでしょうが、決してそうではありません。

もし、本物のバカだったら、とっくの昔に北朝鮮と戦争になっていたでしょうし、米中関係も破局まで突き進むはずです。
トランプ大統領の根幹は、あくまでもビジネスパースンであり、目的合理的な経済価値の実現こそが、彼のすべてといっても良いでしょう。

表向き、滅茶苦茶なケンカを吹っかけているように見えますが、その実、勝てるケンカしかしていません。それは今回の米中貿易戦争でも同じです。
トランプ大統領が望んでいるのは、米国の経済的覇権を守ることであり、「中国と刺し違えても」などという考えは、微塵もないはずです。

最終的に、トランプ大統領は習近平総書記を上手く持ち上げて、事態を収拾するでしょう。また中国側も、無駄な対立は望んでいません。
それは米中貿易戦争の勃発以降、中国政府は対抗措置を講じると発言していますが、あからさまに米国と対立するような、とりわけトランプ大統領を刺激するような声明を出していないことからも分かります。
鈴木 雅光
(すずき まさみつ)
岡三証券、公社債新聞社の記者などを経て独立し、有限会社JOYntを設立。

投資信託や資産運用を中心にして雑誌やオンラインメディアに寄稿する他、出版プロデューサーとして220冊以上の単行本の企画・制作に関わる。

2018年3月まで、日経CNBC「マーケッツのツボ」の聞き手として出演。テレビ番組、ラジオ番組の企画・制作に加え、イベントの運営にも携わる。

またポッドキャストで展開している音声コンテンツ、「はるラジ」では、現在22万人もの登録者を集めている。
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